忍者ブログ
日記と私小説を中心とした翔輪のページです。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

世の中はギャンブルだ。
命が生まれる瞬間どのような環境に生まれるか、
生きてる間にしても、不慮の事故・病気などが起こらないか、
運の要素が付きまとってくる。
こんな事を言うと捻くれた考えだと言う者もいる。
確かに捻くれている。
だけども、大袈裟な話じゃない。
例えば、サラリーマンという道を選ぶもの、芸術家という道を選ぶもの、
それぞれの考えで道を選び、その決断を信じ将来というものを賭けているのではないか?
少なくとも俺はそう思っている。

ギャンブルはそれを浮き彫りにしている感じだ。
今の時代金を賭けるというのは、命を賭けるに等しい。
自分の身・時間を削り得た金で、生活に必要な衣食住を取引するのだから。
勿論顧みればただの紙だ。
だが、今この現状を見れば命と言っても過言ではない。

人間というのは不思議なもので、スリルを求めるものも少なくない。
ジェットコースターやスカイダイビング、下手をすれば命を落としかねない。
死ぬのが嫌ならば、そんなもの避ければ良い話しだ。
最も恐怖を味わい、生きている実感を噛締める為なのかもしれないが…
だが、今日俺は…

「柳沢さん…そろそろ指定された時間です」

文字通り命を賭ける。


-ロシアンルーレット-
 

「しかし、本気なんですか?」

「何がだい?」

「だって、宝くじで一億円当たってアメリカに来るって言ったら旅行だと思っていたのに…」

「その話はもう済んだ話だと思うが?」

「そうですね…」

この男は案内人として雇った山崎とか言う奴だ。
アメリカに10年以上在住していたということで、案内人として雇ったのだが、
目的がロシアンルーレットでの勝負だというと、物凄く反対された。
が、勝負から逃げても殺されるだけだと適当なことを言って説得した。

そもそも今回何故、ロシアンルーレットなどという勝負をすることになったのか。
起因は宝くじで一等の一億二千万という大金が当たったところからだった。
俺はその使い道を、最初ラスベガスのカジノで使い果たそうと考えていた。
そうしてカジノ全般、高額レートの裏カジノを中心に調べていくうちに一つ気になる存在が出てきた。

『K』という存在だ。

ロシアンルーレットにおいて、20年間無敗という。
最も実際にロシアンルーレットが表立って行われることはまずない。
裏カジノの間でもただの都市伝説みたいな感じで囁かれているくらいだった。
だが俺は、この『K』に興味を惹かれた。
そうして調べていくうちに、『K』の存在が実際にいると浮かび上がってきた。
20年間無敗と言っても実際に行われた回数は精々6回くらい、
対戦相手もそれほどいないということらしい、
だが、その6回全てで全勝。
どのように行われたかまでは分からなかったが、賭け金は10万や50万ドルでも勝負を受け、
勝てば『K』の全財産、今までの勝ち金から考えても200万ドルは固いということ。
しかし、『K』の容姿・風貌については不明。
どのような人間なのかまるで分からない。
生きて帰った者はいないからである。
故に『K』とは殺人者のKillerからきているとか…

俺はこの『K』に何とも言えない臭いを感じた。

『K』と戦ってみたい。

そう思い立ち、連絡手段を探し始めたのが一ヶ月前、
そして遂に一週間前、『K』との連絡が取れ対決の交渉をし、
今対決に向かっている車内の中という訳だ。
車は郊外を抜けて人気のない道を走っている。

「しかし、柳沢さん随分落ち着いてますね…」

不意に山崎が話しかけてきた。

「今更慌てふためいても何もならないからな」

「でも、これから命を失うかもしれないという時に、そんな落ち着いていられる人なんていないと思いますよ?」

「俺は人じゃないとでも?」

「いや~、そんなことを言ってる訳じゃないんですけどね」

山崎は苦笑いしながら言った。

「何か自信でもあるんですか?生き残れるっていう…」

「いいや、全くない。ただ…そこで死ぬのならそれが俺の運命っていうやつなんじゃないかと思う。それだけの事さ」

「…覚悟が決まってるっていうやつですかね」

「似たようなもんだな」

「何だか俺と大して年齢も違わないのに…すげーや」

「ただ単に考え方が違うだけさ…」

そうしてまた沈黙が続いた。

10分後、どうやら指定された場所へ着いたようだ。
一軒のパブがそこにはあった。

「ありがとう、ここまでで良い」

俺は山崎に礼を言うと、アタッシュケースを持ちパブへ向かった。

「あ、あの…」

「ん?」

「俺待ってますよ。帰る時にも車がないと不便だと思いますし」

「帰って来ないかもしれないぞ?」

「良い店知ってるんですよ。帰ったら一杯やりましょう」

「…好きにしな」

そう告げて店の中へと入っていった。

-カランカラン

中は閑散としていた。
カウンターにマスターらしき老人が一人いるだけだった。
俺はカウンター席に座る。

「注文は?」

無愛想な声で聞かれた。

「『K』」

長いこと沈黙が続いた。
蛾の羽ばたきが響く。

「…ついてきな」

マスターはカウンター側にある一つの扉を開いた。
入ると、地下へと続く階段があり更にその下には厚手の扉があった。
倉庫に使われていたであろうその部屋へと入っていく。
部屋には微かに漂うアルコールの匂い。
一つの電球、その下にあるテーブル。
そしてそのテーブルの席には、
目的の人物であった『K』と思わしき人物の後姿があった…

「『K』…客だ」

呼ばれた人物は、ゆっくりと振り返ってきた。

「イヒヒヒヒ…」

初めて見る『K』の姿…

「随分と若い客人だな…ウヒヒヒ」

ほど良く肥えた体系、醜い笑みを浮かべた顔。
歳は60くらいだろうか?
しかし、こいつがロシアンルーレットでの無敗の男…『K』。
良く見れば、左腕の袖が途中から弛んでいる。
片腕なのだろうか?

「ククク…こいつは昔事故でやっちまったんだ」

俺の視線に気づいたのか『K』はそんな事を言った。

「東洋人か?」

「日本人だ」

「日本か、俺も一年ほど住んでいた時があるよ…とりあえず座ったらどうだ?イヒヒ」

笑いながら『K』は低い声で言った。
俺はとりあえず向かいの席に座る。

「…お前、本当に俺とやりあうって言うのか?」

相変わらずニタニタした顔で言ってきた。

「あぁ…」

「ククク…金に目が眩んだのか…」

「違う…」

「あん?」

「俺はお前を…」


 

殺しにきた



 

しばし沈黙が訪れた。

「…ククク、良い…素晴らしい…俺を殺しにきたか!」

愉快そうに笑いながら言う『K』

「ここに訪れる連中は皆、事業に失敗したような奴が最後の希望、甦りを賭けてくるような奴等ばかりだった」

「…」

「俺を殺しにきたっていう奴は初めてだ…面白い…実に面白い」

本当に面白いのか、ずっと笑っている。

「そういう事なら、早速勝負の話に移ろうじゃないか…名前は何だ?」

「駿(しゅん)だ」

「シュン、ロシアンルーレットのルールについては知っているな?」

「あぁ…」

ロシアンルーレット、リボルバー式の銃に一発だけ弾を込め弾倉を回す。
順番に自分の頭に向け引き金を引き、死んだものが敗者。

「そうかそうか、それなら話は早い使う銃だが…」

「待った」

「ん?」

「使う銃はこちらで用意させてもらった」

銃に細工がされている可能性を考えて、自分で買ってきたものを取り出した。

「ほう…38口径か…」

『K』はそれを手に取り調べている。

「試し撃ちしてもらっても構わない」

「いや…銃はこれで良いだろう」

『K』は銃をテーブルに置き話を続けた。

「俺に対して銃を用意するのは当然の処置、そうでなくては面白くない」

相変わらず余裕の笑みを浮かべながら話している。

「具体的な勝負の内容について話そう、弾はそこにいるマスターがやってくれる。そして撃つ順番なんだが、その先攻後攻はお前が選んで良い。そうすれば、不正防止にもなる。良いか?」

「あぁ…問題ない」

「それと弾なんだが、この金の弾を使いたい」

そう言われて見せられたのは、光り輝く弾だった。

「ククク…死ぬのなら金に輝くこいつを受けて死にたいという俺の願いだ」

手に取って見て見るが、純金製という訳ではないようだ。
ただ単に金の塗料を塗ってあるような、そんな感じだった。
銃はこちらが出しているのだし、問題もなさそうだった。

「分かった認めよう。だがその前に身体検査を良いか?」

「用心深いんだな」

『K』は立ち上がり腕をあげた。
上から順に調べていく。
上着のポケットからは薬と煙草が、右ポケットにはこの勝負で使われるであったろう銃が出てきた。
俺は銃を部屋の隅に置き、今度は自分が腕をあげた。
そうした身体検査を終えて席に着く。

「肝心なことを忘れていた。賭け金だが…」

俺はアタッシュケースを取り出し開いた。

「100万ドルある」

「結構結構、若いのに大した額だな。俺は…」

『K』はテーブルの下から大き目のトランクケースを2個取り出し1個開いた。

「合計500万ドルだ」

開かれたケースにはびっしりとドル紙幣が収められていた。

「俺に勝てば、これだけの量が手に入る。額の差は気にしなくて良いぞ」

「…」

「問題がないようだったら、始めるか」

そう言うとマスターに銃と弾を渡した。
マスターはそれを受取ると、弾を弾倉に入れ回した。
そうして回っているうちにパチンと素早くセットし、
準備ができた銃をテーブルの上に置いて部屋を出て行った。
俺はその動向が行われている間、マスターと『K』の動きに目を離さなかった。
だが、これと言っておかしな動きはなかった。
マスターのセットの仕方にしても銃を見て、止めた動きはなかったし、
『K』も相変わらずにたついた顔をして、こちらを見ていただけだった。

「それじゃ、先攻と後攻を決めてくれ」

「後攻」

「何だ…威勢が良かった割には後攻を取るとはな」

「…」

確かに後攻は危険な感じもした。
万が一にもあのマスターが、弾の出る順番を自在にできるのだったら、
選べる者の心理から考えると、後攻を取るものが多数だろう。
その心理を狙っての連勝だと考えたらリスクは高い。
だが、そのリスクを払ってでも見ておきたかったのだ。
『K』がこのロシアンルーレットというギャンブルにどういった思惑を描いているのかを…

「まぁ、良いさ結局どの順番でも弾の出る確率は6分の1。後半にまで続いたら後攻は先攻より震えが濃くなる…ヒヒヒヒヒ」

「それはちょっと違うな」

「あん?」

「俺とあんた生き残れるのはどちらか片方、だから弾が出るかどうかは2分の1だ」

「ククク…違いない」

『K』は笑みを浮かべながら自分のこめかみに銃口を向けた。

「それじゃ記念すべき一発目、ここで終わるか終わらないか」

 

-カチッ

弾は出なかった。

「ククク…そりゃそうだ。こんな楽しいことがいきなり終わるわけがない」

銃をテーブルに置く。

「ほら、お前の番だぜ」

言うより早く俺は、自分の頭に向けて引き金を引いていた。

「こいつは驚いたな。死ぬのが怖くないのか?」

「死ぬのが怖ければ、こんなところには来ない。そうだろ?」

「フフフ…確かにそうだ。だが、そうは言っても死に対して恐れる心は生まれる」

「そう言うあんただって、随分と楽しそうじゃないか」

「…ククク、違いない」

『K』は煙草を取り出しながら話を続けた。

「お前には、話しておきたくなった。俺が何故こんな事をしているのかを、少し長くなるが付き合ってくれ」

「…」

「俺は元々医者だったんだ。その当時では神の手とまで言われたことがある。多くの人命を救ってきたと自分でも思っている。…だが、ある日事故で片腕を失ったんだ。当然この様じゃ、手術もできない。しかし、こんな俺でも知識ならある。この知識を教え伝えていく為にも医学の世界に残ろうと考えていたんだ。」

『K』は懐かしそうに、そしてどこか悲しげな表情で話していた。

「だが、こんな俺に待っていたのは、最も非道な仕打ちだった。……ある医療ミスが、俺の責任にされたんだ。そんな馬鹿な話があるかって言うんだ!ちょっと考えれば俺が携われる限界なんて分かる。なのに世間は俺を悪者扱いにしやがった。全ては上が仕組んだものだって言うのによ!その時俺は何もかもを失ったんだ…」

俺も煙草をふかしながら話を聞いた。

「お前に俺のこの気持ちが解るか?」

「…いいや、怒るのは解るが、それが何故今ロシアンルーレットだなんて命賭けなことをしているのかはさっぱり」

「ククク…そうだったなその話をしないとな。俺が最初やったのは何でもないただ死にたいだけだった。だが、初めてやったその相手…そいつの引き金を引く時の表情…死に対する怯え恐れ…
そいつを見ていたら心の奥底から感じる喜びに似たようなものが出てきたんだ。そいつは五発目で死んだんだが、この時俺は解った。命を救ってきた奴等は皆感謝していた。逆に今命の危険に脅かされている連中は恐れる。今まで命を救ってきた俺が奪うかもしれない。この感覚が…人が恐怖するというのが今の俺には至福の味になったんだ!」

「……なるほどな。確かに『K』殺人者の名は伊達ではなかった訳か」

「そういう事だ、だからお前みたいな人間は初めてさ」

そう言い終わると『K』は再び銃を頭に向けた。

「そろそろ、この楽しい時に戻るか…ククク」

ゆっくり引き金を引いていく。


 

-カチッ

 

「これで半分が終わった。次に出る確率は残りだけで考えれば3分の1だぞ?」

にたつきながら銃をテーブルに置く。
俺はそれを手に取り先ほどと同じように、自分のこめかみにつけて引き金を引いた。





-カチッ

「次に出る確率は2分の1だな」

ここにきて、初めて『K』が険しい表情をした。

「何故だ?何故お前は震えない?」

「…別に、ここで死ぬようならそれまでだったと考えてるだけだ」

「死ぬのが怖くないのか?」

「死ぬのが怖いとかいうよりは、俺は世の中をギャンブルみたいなもんだと考えている。例えば俺があんただったら、事故にしても不運だったとしか考えないだろう。その後の罪をかぶせられた事に対しても、してやられたくらいにしか考えない。まぁ、仕返ししてやろうかくらいは考えたかもしれないがな」

「つまり、俺が今ここで死ねば運が良かった。生き残り最後の一発がお前にいったとしたら運が悪かったと考えていると?」

「そういうことだ」

「驚いたぜ、お前みたいな人種もいるんだな。いや、お前はもう人じゃない…魔物か?」

「ただ駿という名前を持った人間さ」

「ククク…そういうことなら俺とお前、どちらの方に女神が微笑んでるのか確かめてみないとな」

そう言うと、銃を手に取り自分の頭に向けた。
そしてゆっくりと引き金を引いていく。


 

-カチッ

五発目も不発だった。

「どうやらお前に微笑んでいるのは、悪魔の方だったらしいな」

そう言いながら銃をテーブルに置いた。
しばしの静寂が訪れる。


やがて俺はそれを手に取り頭へと持っていった。

「最後まで表情を変えないか…ククク」

ゆっくりと引き金を引いていく。

「お前の事覚えておいてやるよ。じゃあなシュン」

 

 

-パーン




 

高く鈍い音が響き渡る。

「終わったのか?」

バーのマスターが入ってきた。

「あぁ…終わったよ」

だがその光景を見てマスターは驚きを隠せなかった。

「こいつはとんでもない奴だな」

その光景とは、椅子に座っている『K』
そして椅子から立ち上がっている駿の姿だった。

「いつから気づいた?」

『K』は静かに聞いた。

「怪しいと思っていたのは勝負をする前から、ロシアンルーレットという種目の根本を考えてからだ」

「根本?」

「ロシアンルーレットというのは相手が死ねば勝ちというもんだ。だから最初俺は、『K』という勝負師を仕立てて金を持って挑んできた連中を数人で襲うものも想定していた」

駿も座り話始める。

「だが、その疑惑はバーに入った時点で消えた。銃に細工をしたりというのも俺の銃を使う時点でなくなった」

「…」

「ルールにも不正さがなかったが、逆にその公平さがあることから疑念は消えることはなかった。そうなると、あの弾が怪しいと思うのは当然でもあるが、弾の出る順番を変えたりすることはできないだろうし、そこまで考えたなら後は、あの弾には火薬がないとしか言えない。あんたは絶対不発の弾を撃つのに、人が恐れをなす姿を見るのが楽しみだったんだろう。あんたが自分を撃つ時に震えなかったのも良い証拠さ。最も確信を持ったのが、最後一発しか入ってないはずの銃を俺に渡した時だ」

「…なるほど」

「最後一発しか入ってない銃を渡されたら自殺志願者でもなければ、自分を撃ったりはしない。いや、最後の一発に限らなくても周りに人がいないこの状況なら、相手に向けて撃つ人間もいるはずだ。不敗の『K』生きて帰った者がいないという点からこう読んだ訳だがな。読み違えてはいなかったようだ」

「左腕にはいつ気づいたんだ?」

「身体検査で腕を調べなかったのは俺のミスだ。だが、最後俺が撃つ時に右腕をテーブルの上に置いていたのがあんたのミスだ。ゆっくり観察できる時間をくれたんだからな。そうなると、最後は左腕に仕込み銃を入れているとしか思えない。最後俺を撃つ為にも右腕をテーブルの上に置いていたと説明できる。銃は多くの種類がある。杖や掌より小さい銃もあるくらいだ。腕に埋め込まれたような銃があってもおかしくはない」

「ククク…これは大した目利きだ」

「後はあんたがその仕込み銃を撃つ瞬間に立てば良い。頭を狙った位置なら胸に、胸を狙ってたなら腹に当たる。そこは、俺が防弾チョッキを着ている位置だからな…椅子の高さも丁度良かった。無論立った俺に照準を合わせてくることも考え、最後は左手で引き金を引いたんだ。右腕で叩く自信があったからな。勿論読みも失敗もする可能性はあったが、俺が賭けに勝ったようだな」

それを聞き終えると『K』は満足したかのような表情を浮かべた。

「完璧に俺の負けのようだな」

煙草の火を消しながら、下からトランクケースを出す。

「持っていきな500万ドル」

俺はそれには目にもくれず言った。

「まだ…終わっていないだろ?」

------------------------

 

------------------------


「マスター、悪いがこのケースを外に運ぶのを手伝ってくれ」

「あ、あぁ…」

「…じゃあな、『K』」

-バタン


 


「…ククク、何だあいつは?…神か?悪魔か?」

一人部屋に残された『K』はそう呟く。

「最後に面白い人間にあったな…ラッキーだぜ」



 

-パーン…

 

部屋には静かな銃声が一つ響き渡った。


外は朝日が昇り始めたばかりだった。
流石に山崎もいないだろうか。

「あ、柳沢さん!」

いるとは意外だった。
帰る道、案の定色々と聞かれ、俺は起こった事を順に話していった。
 

「…はぁ、なるほど。しかし『K』って卑怯な奴ですね」

「卑怯?」

「卑怯じゃないですか?相手はロシアンルーレットをやっている気でいるのに、自分だけ安全を確保してたみたいな」

「なるほどなるほど、基本卑怯だと思うな」

「こんなのずるですよ。ただの殺人者でしかない」

「まぁ、言いたい事は解る。確かにただの殺人者でしかない。だがな、これが『K』の力でもあったんだなと俺は思う」

「力ですか?」

「相手をロシアンルーレットという勝負の中にいると思わせて殺人を行う。後の死体処理も完璧にすれば、相手は行方不明扱いになるくらいだろう。ロシアンルーレットをやる相手なんて、背景も何もないような奴等ばかりだったらしいし、上手くいけば自殺したくらいにしか思われないからな。事実俺があそこで死んでたのなら捜索願いを出す奴もいないだろうし、奴の考え出した力だ」

「計画的犯行ってやつですかね?」

「まぁ、ロシアンルーレットを行う上での死を覚悟するっていう部分を上手く使ったと言えるな。だが、奴にも心の隙があった。それが最後の六回まで引き伸ばしたことさ」

「柳沢さんにばれちゃいましたもんね」

「俺が奴だったら、一発目から俺を撃っていただろうよ。そうすれば死んでいたのは俺だった。最も、『K』には人が怯える姿を見たいという思いがあったらしいが、それが結局命取りになった」

「こうなったのも自業自得っていうやつですかね…でも柳沢さんは『K』を撃たなかったんでしょ?」

「あぁ…俺が最後にしたのは、自分の弾を一発弾倉に入れて回して自分の頭に三回撃っただけだ」

「は?!な、何でそんなことしたんですか?!」

「ククク…奴が人が怯える姿を見るのに酔っていたように、俺も酔っていたのさ、博打好きっていう奴が…」

「…俺は柳沢さんの方が怖いわ。柳沢さんって何者なんですか?」

「ただの人だよ」

言い終えた後、ゆっくりと今までの勝負の熱が引いていくのがわかった。
そういえば、『K』の本当の名前を聞いてなかったな…

横から射す太陽の光が眩しかった。

PR
リンク
最新コメント
[11/22 らいこ]
[11/05 しゅみあ]
[10/30 しゅみあ]
[10/17 翔輪]
[10/06 (゚ω゚)コショウ]
最新記事
(10/31)
(10/24)
(10/20)
(10/17)
(09/20)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
翔輪
年齢:
38
性別:
男性
誕生日:
1986/04/12
ブログ内検索
最古記事
(08/08)
(08/11)
(08/15)
(08/15)
(08/18)
忍者ブログ [PR]